伝統療法

 このブログを始める何年も前から、書きたい、書いて伝えたいと思っていることがあります。しかし、なかなか書き出せずに来ました。今日は書きはじめることができるか、どうか。

 9月の終わりまで暑い日が続き、10月に入っても大方薄着で過ごしている今年。暑い中を雑事に追われ朦朧としているうちに時間に先を越されてしまったかのように、茫然としている自分がいます。8月は特に忙しかったため、夏中、体力が落ちていると感じさせられました。一度疲れを溜めてしまうとペースを取り戻すのに四苦八苦。

 元々体力に恵まれたタイプではなく、20代にいろいろと無理を重ねたことがたたり、十年と少し前に、腹部にメスを入れることになりました。手術自体は盲腸摘出に毛が生えた程度の簡単なものでしたが、それまでの丸一年いろいろな症状に悩まされ、手術後はそれに併せて後遺症に見舞われ、体調は長いこと散々。病院もどこに行ったらよいのかわからないながらも何か所も行きましたが、解決には至らず、仕方ないので自分であれこれと健康法を手探りしはじめました。夢中でした。

 寝ても起きてもどうにもしようのない痛みやら苦痛やらで、なんとかしなければ“自分の体の中に自分の居場所がない。身の置き所がない”、気絶でもできればいいけれど、悪いのが右半身のみで、その結果どういうことになるかというと、病んで壊れていったり、もしかしたら腐っていったりしていそうな右半身の状態とその苦痛を正常な左が観察するという羽目に。過酷な状態です。
 そんなことを経験していたある日、苦痛で横になっているとき、ふと『カンポウ(―漢方)…ヤク(―薬)』という言葉が頭に浮かびました。それはそのまま、子供のころ同居していた祖父の本棚にずらっと並んだ漢方薬や民間療法、東洋医学の書物の記憶のビジョンとして連なり、祖父の本棚が瞼に浮かんできました。はっとして、これだと感じました。そして数年前に買っていた雑誌の漢方薬特集の記事を見直し始め、その後数冊の本を買い込んできて自分の体質について自分で分析しはじめたのです。

 どちらかといえばやせ形、冷え性、明らかに「虚(きょ)」と分類されるタイプです。このタイプは日頃から『とにかくに冷やさない、温める、暖かくする』ことが肝心です。巷でよく言われていることも、東洋医学の知の体系という背景を得るとぐっとその意味が自分に迫ってきます。切実な悩みをきっかけにして、自分の不調について考え、不調の症状を捉え直し、分析し、それらの情報を整理して、そして考える。考えられる対処法を調べていく。場合によっては処方されるであろう漢方薬を絞り込んでいき、その成分と類を同じにする野菜(たとえば、それはにんじんだったり、セロリだったり、山芋やゴボウであったり)をその時々の体調に合わせて組み合わせた献立を考えて食事を作るなどしていました。苦痛から逃れようという切実な必要からすることなので、まったく大変だという感じはなく、とてもクリエイティブで充実した時間でした。そして自分の想定通りに不快感や不調が改善されるとある達成感のようなものとともに、きっと良くなれるのだという喜び、希望が湧いてくるのです。その頃少し前から行きはじめたスポーツクラブで身体を動かすようになったことも奏功したのだと思います。『病気で苦しいはずだけど、楽しい。』毎日がそんな感じ。

 そうして、振り返れば、いろいろなことを調べ考えました。―食養生漢方薬中医学、経絡指圧、リンパマッサージ、ヨガにピラティスクラシックバレエ、さらに最近ではアロマテラピー。夢中でした。あらためて書き出していると、それぞれの知識の泉に触れたときの感動と喜び記憶が、自分の細胞の奥から吹き出してくるかのよう。これだけでワクワク!と楽しい気持ちになります♪ 人間の体の仕組み、病気の仕組み、それに向き合ってきた古えの人々の知恵の結晶として今日に伝えられた伝統療法。―調べたり実践したりを繰り返すうちに点だった知識も少しずつ結ばれて線になり、そして面へと繋がっていく。その度に『あっ、そうっだったのか!』と枯れ地に泉が吹き出したかのような、日照り続きに雨がしっとりと浸みわたるような充実感が自分の中を満たしていきます。『病気で苦しいはず、だけれど、知恵の世界に巡り合えて嬉しい。』そうして私の生活も意識もどんどんと一変していきました。伝統療法のたすけによって不調に陥りがちな私の身体でも、希望と連れだって暮らしてきました。

 ここ最近、とくに震災以降は、はじめてのブログにも書いたとおり気力を落としてしまい、悩みの質も変わっています。あの“夢中の楽しさ”はすでに“いま”のものではありませんが、それだけ病気そのものの悩みからすでに解放された、ということ、つまり病気はもう完治した、または完治しようとしているということでしょう。

 もしも、原因不明の不調に悩んでいる方がこの拙文と出会われたら『いろいろ大変だと思いますが、いつか自分に合った方法が見つかって、良くなれる、せめても改善できる、その可能性はあるのだ。』と、お伝えしたいと思います。

 またいずれ、具体的に何を知り、どのようにしたのか、あらためてまとめていきたいものと思います。何かご質問などあれば、お気軽にどうぞ。info@kaensai.com

 はやく夏の疲れを取り去って、今年の秋が楽しい秋になりますように。

 ノーベル賞授賞の報で、病気で困難な状況にある人々の力になりたいという信念が今もどこかに息づいていると知らされたその日に。危うい先端技術を人倫が制御し続けることを祈りながら。