緑の恩寵

今年も、ブログ、ブログと言いつつ、思いつつ、前の更新から4カ月。
実は、前回の更新からほどなく、ある朝、突如としてPCがまったく立ち上がらなくなりました。つまり故障してしまい…。
無事修理できましたが、一時は大変あわてました。買い替えるにも欲しいパソコンが見当たりません。世の中がツールをPCからタブレットに変えつつある、ということでしょうか。

PCを修理に出して、いろいろと仕事を滞らせていた間に、梅が散り、椿が満開になり、桜が冷たい雨に散っていき、道端に色を添えていたムスカリも姿を消して、藤が房を垂れたかと思ったら、昨日今日はあちらこちらからジャスミンが薫ってきます。花の季節が移り変わっていくのは、ほんとうにあっという間ですね。こうしてみると世田谷のお宅は花がお好きですね。半世紀以上も人口減少に悩んでいる日本のいたるところを尻目にして、ここ世田谷はおそらく今も人口増が続いていると思います。その魅力は何と言っても、緑。街なかの大樹が保存樹木として暮らしに潤いを与え、その木陰を楽しみながら、家々がそれぞれ、花を楽しんだり、木を植えたりしていることが共鳴して、意外にも地方都市にいるよりもずっと植物を感じながら暮らすことができます。近所に新しく誕生する公園は、地元の人と一緒に作り上げたいと、区役所の担当の方が、様々な呼びかけや報告を重ねてこられています。残念ながら、時間のゆとりがなくて、公園づくりは参加できませんでしたが、区役所から投函される経過報告のチラシは楽しみに拝見してきました。とはいえ、世田谷暮らしが10年を超えたころからは、世界的大都市の動脈たる環状線など激しい車の往来による地響きが絶えることもないということにも次第に気づくようになりました。

地方の人口減少へと話題がそれたついでに、日頃から思っていることを少し書くと、たしかに首都圏に仕事があり、地方に仕事がないから、首都圏の人口増が止まらないのですが、仕事ばかりでなく、その街の人が人間のくらしをどう考えているか、ということは、街の表情となってあらわれて街が人を引き付けるかどうかに影響を与えているように思います。至るところに競争がはびこる東京砂漠ではありますが、この世田谷上用賀では、砂漠のままにはしておくまい、という願いや意志を持つ人々のふるまいが、植物を通じて、街の大きな傘になっているかのよう。私の実家は、岩手県盛岡市ですが、むかし母に家の敷地に植生を施すことで地域の価値を高めていくから、計画的に敷地全体を設計して取り組むべきだ、と提言し続けましたが、返ってくる言葉は『まわりに自然があるから、いらない』と、まあ地方の人の平均的な頭の中の話ですね。たしかに、地方に行くと、日本は自然の起伏に恵まれているので土地によって、山なり川なり海なりと幾らでも豊かな自然に触れることができるのですが、それでも、便利さ快適さの代償として、山奥でもない限りそうした風景はたいてい電柱や電線であちこち切り刻まれています。すると日常目にしている風景に本能的に満足できないので、きれいなものを眺めるために外国に行く。海外旅行の快楽から帰ってくると、自分の日常の現実を直視できずに、日常をていねいにくらすことをやめてしまう。街も人も自然も家も、自分のまわりを取り囲む森羅万象をよく見つめ、感じ、大切にすることもなく活性化しよう、というのはあまり期待できそうにありません。その意味で、フランス・イタリアあたりの街の景色には彼らの人生と風景を愛する生き方の現れを感じさせられますよね。海外の美しい景色や風景も、けっしてただ惰性的にそこにあるわけではなく、人が作ったり、または偶然生じた眺めのよさを、良さとして認めるという原点に始まり、それを地域の人と分かち合い、守ることによって、ほかの土地からも訪れる人が絶えない“活性化”した街が生まれていく、と思われますが、どうでしょうか。とはいえ現実の自分を顧みると、少しのベランダの植木鉢も、体調が充実しないと世話しきれなくなり、天気と体調を見合せながら、いつ手入れできるかと、四六時中宿題を抱えている気分であり、この大都会の傍らで世田谷の家々の手入れされた植物にいつも感心し、感謝しています。

街の話でつなげると、ここまでのところでもおわかりでしょうが、人に言わせると私は地元志向が強いのだそうです。やたらと『住めば都』と自分がいるところをいいところと思い込んで悦に入り、浸っている、と見えるそう。今いる上用賀のまえに少しの間、となりの弦巻に暮らし始めたのが世田谷暮らしの始まりです。それから、かれこれ20年に近付いてきました。前の住まいよりは遠くなりましたが、地域の小学校の用賀小の前を通ると、フェンスに子どもたちが作った『用賀のまち、ありがとう。用賀小大好き』(?)の文字がかかげられています。側をとおるときには小さな声で読み上げ、『ありがとう、用賀のまち』とつぶやいています。